紫乃 という女がいた。
20も違うその女(ひと)に私は憧れた。
涼やかなまなざし 薄めの唇からこぼれる控えめな笑い声。
しなやかな指先。白い肌。
柔らかな髪の毛を巻き結いした時に魅せる細い首と後れ毛。

自分には何一つ無いものを彼女は持っていた。
何もかもが憧れだった。
大人の女がそこに居た。
そんな彼女が やさしい語り口で私に諭す。
「あたしみたいになったらだめよ。。」
水割りを呷る咽が苦しげに酒を流し込む。
「あんたはね、こんな世界を見ちゃだめよ・・。」
タバコの煙がくらくら揺れる。
「生きてく場所が違うのよ・・。」
哀しげに瞳が揺れる。
「子供が遊ぶ所じゃないよ・・。」
三日月の眉が歪む。
何もかもを満たしてると思ってた彼女からの忠告。
憧れてた人からの言葉。
突き放された思い。
大人の女の不思議さ。
何も判らない自分。
酒の味も知らないくせに やけに苦く感じた夜。
あの日から
彼女は姿を消してしまった。
最後に
「もう 長くないの・・。」と言ったっきり・・。
呟くように 独り言のように残した言葉が
私の奥で 時折ゆれる。